次世代主力製品を開発せよ!

今や加茂精工の主力製品にまで成長したTCG(トロコイドカムギア)の開発秘話に迫ります。
会長、社長の今瀬親子に聞きました。

社長今瀬玄太、会長今瀬憲司


 

回転も直線も制せよ

 会社は宿命として常に発展・成長し続けなければいけない。行く末はボール減速機と双璧をなす看板製品が欲しかった。
 ボール減速機は回転運動だ。次は直線運動のノンバックラッシ製品を狙った。それには我社らしいユニークなものであることが条件だ。
 直線運動の代表的な装置と言えばラック&ピニオン、ボールねじ、チェーンなどが存在する。

ボール減速機のノウハウより

 ラック&ピニオンは用途幅が広く普及しているがバックラッシがあり精度を求める箇所では使用が制限されることが多い。
 片や、バックラッシの少ないボールねじは構造上長い距離には対応できない。
 ノンバックラッシで長い距離を駆動できるものを創れないかと模索した。

会長が閃いた。
”転がり接触”
これはボール減速機開発のノウハウがあったからこそだった。

創れど造れないもの

 文献を調べると古い機構学の本より「ピン歯車」というものに行きついた。ピン歯車の相手側の歯はサイクロイド曲線形状。これにより常に多点接触をしており滑らかでノンバックラッシを実現する。原理はまさに閃いたものと同じであった。ピン歯車は基本設計思想があったが実用に至っていなかった。
 その理由はサイクロイド曲線状であるラックの歯型に尽きる。
 発案された当時、その歯形状を設計(計算)する手段、加工する手段が共に無かったのだ。
 アイデアはあっても造る技術が無いもの。この世には意外にもたくさん存在する。いわば”創れど造れないもの”である。ピン歯車はまさに時代に取り残された技術そのものだった。

機会は突然に

 ある日、得意先より高精度長尺直線運動を実現するものが無いかと相談が入った。同じ愛知県にある工場での製造ラインの設計にかなり手こずっていたらしい。
 迷った。が、口が自然と動いた。
「あるよ」
 口に出したが良いが全ては机上のこと。造ったことすらないモノ。しかし頭の中ではもう出来ている。あとは生産技術、造り方のみ。

現代技術で実現したピン歯車

 ボール減速機の技術検証でお世話になったロボット工学の権威であった国立大学教授の門を再び叩く。
「急いで試作品を作りたい」
言ってみれば”無茶なお願い”であった。しかしこのタッグには不可能を可能にした実績がある。2日の徹夜の後、芸術的ともいえるサイクロイド曲線を加工するマシニングセンターのプログラムが完成した。
 すぐに試作品を造った。試作品には大きな手ごたえがあった。

急転直下

 件の工場へ得意先と一緒に試作品を持ち込みテストした。結果は上々。3人の笑みがこぼれた。同時に武者震いがした。

 しかしこの話はうまくはいかなかった。思った以上の結果を出した試作1号機ではあるが工場担当者の上司は新しい技術を嫌った。
 無理も無い。ライン設計には実績と安定稼働という要素が大きく影響する。全くの新技術の受入には時間が掛かるものだ。
 この案件は土壇場で採用されなかったがここで諦めるわけにはいかなかった。

何としても製品化する!

決断の果てにあるもの

 一番大きなハードルは製品化、量産化に必要な”資金調達”であった。正直、金が無い。
 社内ではボールねじに代わる今までに無い直線駆動装置の誕生に大きな期待が寄せられた。
製品化、量産化するには複数の高額な加工機とスペースが必要だった。
 やすりのように硬い鋼材を精度高く削ることがTCG生産の肝なのだ。

市場に受け入られるべく

 苦労はしたが新工場が建ち最低限の製造ラインも整った。
性能は良いが少し値の張るTCG、ライン設計者の初見の印象は一言で言うと”とっつきにくいもの”であった。
 全てが新しい製品はなかなか受け入れられない。市場の常だ。
 営業に多くの時間を要した。得意先には役員自ら積極的に訪問しPRした。
”高精度””低振動””低騒音””低摩耗””高耐久性”
基本性能は嘘をつかない。じわりじわりと好評を得た。
 また、形状や素材が違うオーダー品対応など当社の強みである小回りの利く受注システムも手伝いゆっくりではあるが徐々に市場に受け入れられた。今やコンスタントに当社売上の60%を占める主力製品に成長したのである。

 今後どのような製品に育てたいか?
 社長に聞いた。精度の高い直線運動装置。これが世の中から無くなることはありません。今後は世界中の人々に使用してもらうような製品に育てたいと思うのです。また、ボール減速機、TCGだけに留まらず会長のエンジニアスピリットを継承し夢のある新規有用なものを開発し提供し続けることが我社の使命であると思っています。

 苦労話を聞きたかった。しかし会長はボール減速機の取材の時と同じように「苦労話は無い」と言い切る。「新しいものを世に産み出す作業はワクワクして、楽しくてしょうがない」

 取材者は良い記事が書けないなと思いつつも当社のスピリットの源泉を見た気がしたのであった。


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